マダガスカル取材でメッセージの発信を休ませていただいていたこの1ヶ月間、アフガニスタンでは大きな変化はなかったようです。国民に選挙で信を問うことなく、タリバンは武力による統治の既成事実化を着実に進めています。ウエッブ・アフガン(https://afghan.caravan.net/topics/)が現地日刊紙「Hasht e Subb Daily」の「この10日間の出来事」を引用していますが、そのニュースリストには、逮捕、暴力、自殺などのニュースが並んでいます。そこに出ていなくても、タリバンは北部での土地収奪、音楽活動や言論への弾圧、国外からの過激派支援などは続けています。
そんな中で、私の目をひいたのはアフガニスタン北東部ワハン回廊出身の、カシミール・タジクの人たちの踊りでした。それをツイッターに投稿したのはメカニカル・エンジニアで投資家でもあるサイード・アイヤール。「美しいエケ・ラシェディンのダンスを見て希望を得、悲しみを少しの間あなたの心から消し去ってください 」と彼は書いています。皆さんも是非、この動画を見てください。ひとときでも「美しく豊かな気持ち」になれますから。
https://twitter.com/AyyarKhorasan/status/1664715103491506176?s=20
しかし、現実のアフガニスタンは、心の落ち着きを許す状況からは程遠いようです。イランとの国境地帯では、イラン国境警備隊とタリバンとの戦闘が起き、イラン側に死傷者が出ているようです。この衝突の背景には、ヘルマンド川のイラン側への放出量が取り決めよりも少ないと、イラン側が抗議したということがあるようです。タリバンは国境へ装甲車(米国製)を何十台も向かわせています。その緊迫した様子が映った動画を「Panjshir province」が投稿しています。
#Breaking
— Panjshir_Province (@PanjshirProvin1) May 31, 2023
American military conveys with Taliban soldiers heading towards afg and #Iran border
Taliban military convoys, armed with heavy weapons, moving towards the Islam Qala border in Herat. Though the Taliban deny any kind of tension at the border, but they do not provide… pic.twitter.com/rQ5srFIkGa
タリバンの中には「イランに侵攻すべきだ」という強硬論も出ているというから驚きです。そうした動きの中でイラン外相が「(ターリバーンは)アフガニスタンの実効支配勢力の一部にすぎず、同国で包摂的な政府が樹立される必要がある」と発言するなど、これまで良好だった両国関係の雲行きが怪しくなっています。
東隣のパキスタン国境でも戦闘が起きています。パキスタン政府軍に攻撃をかけたパキスタン・タリバン運動(TTP)の出撃拠点がアフガン領土内にあるとして、パキスタン空軍がアフガン側を空爆したのです。それに対し、タリバンは「とんでもないことになるだろう」と警告を発し、両者の緊張が続いています。
パキスタンはタリバンの最大の後ろ盾であり、貿易において最大の取り引き相手でもあるのに、強硬に事を構えるのはなぜなのか。米国の支援があるから強気なのでしょうか。先日、タリバン閣僚が、タジキスタンやウズベキスタン、イランなどから買い入れている電力代が200億円を超えていることを記者会見で話していました。2021年末には、電力代の支払いをしなかったことでタジキスタンからの送電が停止し、首都カブールが大騒ぎになったことがありました。そのタジキスタンも「アフガニスタン北部が過激派テロリストの拠点となっている」と国境の警備を強め、ここでも緊張が強まっています。タリバンは周辺国等との経済的整合性を考えることができないのでしょう。
そうしたタリバンに「タリバンはこの国にとって良くない」と面と向かって批判した人物がいます。ザ・ユンテレビのオーナー、ユン氏です。それまでは「タリバンは95点」と礼賛していたのですが、「タリバンがザ・ユンテレビの土地を取りあげようしたことから態度が一変した」とアフガニスタン国際ニュースが皮肉混じりに報じています。そのユン氏は会見の中で「橋を破壊した者は公共事業大臣になり、電柱を破壊した者は水道・電気大臣になったが、奉仕した者は国家反逆罪で告発された」とも述べていて、よく言ったなと驚きました。
اسماعیل یون، مالک تلویزیون ژوندون، در نشستی در کابل گفته است که «افراد طالبان که در پاکستان زندگی کرده اند و اکنون در افغانستان به قدرت رسیده اند، به سود کشور نیستند».
— Amu TV (@AmuTelevision) June 5, 2023
او که امروز در کابل نشست خبری داشت گفت «کسانی که در ویرانی کشور دست داشتند حالا به مقام وزارت رسیده اند».
او… pic.twitter.com/ohFqUNZ3pT
彼の態度の急転を身勝手と言うこともできますが、もっと驚いたのは米国の元外交官デビッド・サンディ氏の発言です。アフガニスタン国際ニュースが伝えるところによれば、ラジオ・アフガニスタン・インターナショナルのインタビューで同氏は「アフガニスタン国民が行動しなければ、タリバンは消滅しない」と述べたというのです。それはそっくり米国の指導者たちに返したい言葉だと思いました。70億ドル相当の武器をタリバンに渡し、今も現金支援をすることでタリバンを助けているからです。米国が変わらなければ、選挙で国民の信を問おうともしないタリバンが権力の座から落ちることはないでしょう。
国家の体制を守ろうとするエゴイズム、そして、自分の利益を第一に考える大人たち。そんな中で、アフガニスタンの子どもたちの純粋さに触れることができたテレビ番組がありました。5月29日にBS/NHK の「世界のドキュメンタリー」で放映された「タリバン統治下に生きるーアフガニスタンの子どもたち(原題 Children of Taliban )」(Noondogs Film。英・独・アフガニスタン共同制作)です。
街で靴磨きをして家計を支えるシャクリアとアレゾ(共に9歳)、そしてタリバン幹部の息子アブドラとエフサヌラ(共に8歳)を軸に物語は進みます。どのシーンも心に残りましたが、特に印象深かったのは、アブドラとエフサヌラの食事のシーンでした。
タリバン幹部の息子アブドラが食事中、「前の政府は物乞いにお金を与えてなかった」と話し、記者が「タリバンはどうなの?」と尋ねます。アブドラは兄らしき人物に「あげてる?」と尋ね、「いいや」という返事を聞きます。その後、お腹いっぱいに食べたアブドラは「もう入らないよ。お腹がはちきれそう」と言います。
もうひとつは物語の最後、シャクリアがアレゾと話すシーン。「向こうに願い事が叶う木があるんだって。願いが叶うなら私は弟が欲しい。でも、父さんがいないから無理だよね。二番目は町で一番のお金持ちになること。だって貧しい人を助けられるから」と言うシーンでした。
二組の子どもたちを通して、アフガニスタンの現実が浮かび上がる素晴らしい番組だったと思います。この番組は〝英国アカデミー賞時事番組賞を受賞した”とテロップがあり、最後は「子どもたちの中にかすかな希望が灯っている」というナレーションで終わっていました。
そんな、子どもたちの純粋な思いを形にするのは大人たちです。この国を変えようと努力する人たちを、タリバンは自爆テロという手段で摘み取ってきました。
最近のツイッターで「ダウド・ダウドが亡くなって12年」と言う投稿がありました。有能な司令官として何度もマスードの窮地を救い、その後のカルザイ政権では副内務大臣となって将来を嘱望されましたが、会議室の机の下に仕掛けられた爆弾で亡くなりました。公務で日本を訪れた時に、私に何度も電話をくれたようで、カブールで再会した時には「取材で留守だったのかな」と残念そうでした。その時、「いまは夜間の大学で勉強している。(アフガニスタンには)大統領になるには大卒でなければならないという法律があるから。この国を良くするために大統領になりたいんだ」とそっと口に手を当てて、誰にも話していない夢を話してくれたダウド。その彼ももういません。
12 years have passed since the martyrdom of the late General Daud Daud.
— Jamshid (@JamshidTajik1) May 28, 2023
He was a brave, fearless, and effective military leader, who no doubt would have currently been playing an integral role in the second resistance to the terrorist Taliban.
Rohesh shad, yadesh gerami bad. pic.twitter.com/z3ZMfW8Pij
有無を言わさず、命を奪うテロは決して許されません。テロは未来も人の夢をも奪うものだからです。アフガニスタンには、テロで命を奪われることなく、自由に教育を受け、思ったことを自由に言える国になって欲しい。それが私の願いです。それが実現するまで、何年かかろうと、アフガニスタンを見守っていきたいと思っています。
2023年6月8日 長倉洋海